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来賓スピーチ2025

2025年度国際大学(IUJ)修了式

田中 明彦様

独立行政法人国際協力機構 理事長

祝辞(和訳)

國分文也理事長、橘川武郎学長、理事・評議員の皆様、教職員の皆様、ご来賓の皆様、ご家族の皆様、ご友人の皆様、そして何よりも修了生の皆様。 お祝い申し上げます。

国際大学の修了式でスピーチをする機会をいただき、光栄に思います。独立行政法人国際協力機構(JICA)の理事長として、国際大学の修了生を皆さんと共にお祝いできることを光栄に思います。ご存知のように、国際大学は日本のどの大学よりも多くのJICA奨学生を受け入れています。

実際、IUJのミッションである「高度な専門的知識と技能を有し、異文化を深く理解し尊重するグローバル・リーダーを育成し、もって国際社会の発展に貢献する」は、JICAのミッションと完全に一致しています。

また、JICAは日本・グローバル開発学プログラム、国際公共政策プログラム、国際社会起業家プログラムの3つのIUJプログラムの共同運営に携わっていること光栄に思います。 JICA奨学生を受け入れ、今申し上げた3つのプログラムの共同運営を許可してくださった國分理事長、橘川学長、教職員の皆様に感謝申し上げます。

修了生の皆さんには改めてお祝いを申し上げたいと思います。 IUJのアカデミック・プログラムで多くのことを学ばれたことと思います。 また、新潟での滞在を楽しまれたことでしょう。美しい景色、たくさんの雪、温泉、美味しい食べ物。地酒が大好きになった方もいらっしゃることでしょう。 改めて、おめでとうございます。ここで学んだことを糧に、皆さんはそれぞれの未来を開拓する準備が整いました。

しかし、皆さんが直面する世界は簡単なものではなく、挑戦の連続です。グローバル・リーダーとして、皆さんは自国と世界をより良くするための貢献が期待されています。

事実、皆さんが直面している世界は、おそらく100年に一度の混乱の真っ只中にあります。ウクライナへのロシアの侵略は続いています。 ガザでの残虐行為は終わる気配がありません。 米国を巻き込んだイスラエルとイランの戦争は、幸いにも停戦に至りましたが、中東全体の安定は未だ不透明です。スーダンやミャンマーでは内戦が続いています。米国と多くの国々の間で関税交渉が続いており、国際貿易体制の先行きは不透明です。

私たちは、国際関係の不安定さや人為的な危機だけでなく、自然災害や病気によっても脅かされています。 巨大地震、津波、火山の噴火は、長年に亘り頻繁に人類を脅かしています。昨年3月にはミャンマーで大地震が発生しました。 日本は2011年に巨大地震と津波に襲われ、原発事故も引き起こしました。 近年は、巨大噴火は起きていませんが、1815年にインドネシアで起きたタンボラ山の噴火のようなことが起きれば、1816年のように世界は「夏のない年」を経験するかもしれません。

さらに、現在進行中の気候変動によって引き起こされる異常気象の頻度も増加しています。 洪水や干ばつはより頻繁に、より深刻になっています。今年1月のロサンゼルスのように、都市近郊で森林火災が起きています。熱波は、多くの犠牲者を出しています。

疾病は長い間、人類を脅かしてきましたが、世界の相互の結びつきが強まった結果、局地的に発生した感染症が瞬く間に流行し、やがてパンデミックに発展することもあります。 COVID-19はその直近の例です。

人災であれ自然災害であれ、それぞれの危機への対応は容易ではありません。多くの場合、危機は単独で起こっているわけではありません。政治的に不安定な国で発生した大地震は、人的被害を増幅させ、政治状況をさらに悪化させるかもしれません。 長引く干ばつなどの異常気象は、民族間紛争を引き起こすかもしれません。戦争は食料とエネルギーのグローバル・サプライ・チェーンを寸断し、紛争国から遠く離れた国にも経済危機をもたらすかもしれません。

つまり、現在の複合的危機のもとで、私たち人間の安全保障は脅かされているのです。私たちの日々の生活が恐怖から免れている状態、恐怖からの自由は、戦争や暴力的紛争、犯罪といった人為的な危機によって脅かされています。自然災害も脅かす原因です。 同じく日々の生活が欠乏から免れている状態、欠乏からの自由は、開発の欠如や不適切な経済運営によって脅かされています。 しかし、自然災害もまた、人々から食料や収入を奪います。人間の尊厳は、政治的抑圧、食糧不足、自然災害後の非人道的な状況によって脅かされています。人間の安全保障とは、恐怖や欠乏からの自由及び人々の尊厳の尊重と定義されますが、今、この100年に一度の複合的な混乱によって脅かされています。
しかしながら、過度に悲観的になるべきではありません。 進歩や革新の機会や可能性はあります。 世界のいくつかの地域で戦争が続いている一方で、他の地域では平和構築と安定化の取り組みは進展しています。例えば、フィリピンのミンダナオ島は長い間、激しい紛争が絶えませんでした。しかし、2014年に包括和平合意が締結された後、議会を巻き込んだ一連の平和構築の取り組みおよび開発活動が重ねられました。今秋にはバンサモロ自治地域設立のための議会選挙が行われる予定です。

デフォルト(債務不履行)を含む財政危機に見舞われた多くの国々は、財政規律を強化し、健全なマクロ経済政策によって財政状態を改善しつつあります。大統領選挙や議会選挙の後に不安定な状況に陥ったいくつかの国々は、現在、平和的な政権移譲を達成しつつあります。

今説明したような複合的危機によって、SDGsの一部の達成の見通しは暗くなっていますが、少なくともいくつかの開発プロジェクトの成功も目の当たりにしています。例えば、JICAが2006年にケニアで始めた「市場志向型農業振興(SHEP)」のアプローチは、現在57カ国で実施されています。SHEPとは 「Smallholder Horticulture Empowerment and Promotion 」の略で、「小規模園芸農家のエンパワーメントと振興」を意味します。農民の考えを「育てて売る」から「売るために育てる」に変えることで、SHEPアプローチは小農の収入を大幅に増加させます。

もちろん、新たに利用可能になった技術を革新的に活用することで、開発の新たなフロンティアを開拓することはできます。 アフリカやその他の地域では、オンライン医療サービスを実施している新興企業もあります。3Dプリンターの革新的な利用により、義手や義足をより迅速に、よりリーズナブルな価格で作ることができます。水道システムの非効率な料金徴収は、水道利用カードのようなプリペイドカードを導入することで劇的に改善できるでしょう。

このような前向きなトレンドやイノベーションのアプローチは、人間の安全保障を維持するために非常に有効な手段です。 私たちは、人間の安全保障に関わる緊急かつ深刻な危機に対処するため、迅速な対応をとる必要があります。しかし、長い目で見れば、危機に強い社会を作ることも非常に重要です。その意味で、チャンスを最大限に生かすイノベーションもまた、人間の安全保障にとって重要なアプローチなのです。

優秀な修了生の皆さん、

皆さんは、今述べたような課題や機会に関連する分野を専門としてきたはずであり、その知識や専門性は、皆さんの国や国際社会にとって貴重な財産です。 世界的な地政学的課題に対処するためには、責任ある政治リーダーと有能な外交官が必要です。人道的危機を軽減するためには、国際人道支援組織や非政府組織の有能なスタッフが必要です。より良い国際貿易システムを維持・構築するためには、先見性のある政治指導者と有能な貿易交渉担当者が必要です。財政危機を回避し、優れたマクロ経済政策を維持するためには、優秀な中央銀行幹部や財務省の有能な官僚が必要です。

災害リスクの軽減には、災害管理に精通した行政官、地震学や気象学のエンジニアや科学者が必要です。健康への脅威を減らすためには、医療分野の訓練を受けた行政官や医師、科学者が必要です。

新技術の恩恵を最大限に生かすためには、起業家や起業に必要な資金を提供する金融の専門家が必要です。 古い技術の革新的な利用や再利用を進めるためには、経験豊富な開発専門家が必要です。 危機と機会は相互に関連しているため、革新的な共創を調整し奨励する人材が必要です。

教育とジャーナリズムにおける才能の重要性を忘れてはいけません。現在の世界的危機の本質を理解し、可能な解決策を探るためには、教育とジャーナリズムの役割は極めて重要です。現在の機会を最大限に生かすためにも、教育とジャーナリズムの役割は極めて重要です。

修了生の皆さん、

皆さんの専門分野が何であれ、IUJでの学びが、世界に羽ばたき、貢献し、インパクトを与えるための準備になったと確信しています。

改めてお祝い申し上げますとともに、これからの国際社会への皆さんの貴重な貢献に感謝します。 皆さんと一緒に、私たちが望むより良い未来を共創していくことを心待ちにしています。

ありがとうございました。

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