修了式スピーチ2026
国際大学 学長
橘川 武郎
本日、私たちは、国際大学(IUJ)の修士課程・博士課程を修了される2026年度修了生をお祝いするために集りました。国際関係学研究科から修士課程の学生115人、国際経営学研究科から修士課程の学生67人、そして国際関係学研究科から博士課程の学生1人を本日送り出せることを、喜びをもって報告させていただきます。
日本の原風景を思わせる豊かな自然に囲まれた浦佐キャンパスで日々、熱心に学問に励まれた修了生の皆さんと、それを支えたご家族の皆様に、心からお祝いの言葉を申し上げます。皆さんがご自身の成果を誇らしく思うように、私たちIUJ関係者一同もまた、皆さんの素晴らしい成果を誇らしく思っております。
ここで、学生の学びと成長を支えてくださったご家族、奨学金スポンサー、そして地域の皆様に、心より感謝申し上げます。奨学金スポンサーの方々と地域の皆様からのご支援は、IUJを真にグローバルな学びの場とするうえで欠かせないものです。これまでのご支援とご協力に、改めて厚く御礼申し上げます。
今、世界では、分断と対立が満ち溢れています。憎悪の言葉が飛び交い、しばしば殺戮をともなう武力の行使が行われています。未来は暗く、絶望的なように見えます。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
戦争は、いつの時代にもありました。そのたびに人類は、それを乗り越え、前を向いて歩み続けてきました。今では、この美しい惑星、地球の上に、80億人を超す人々が暮らしています。人類は、本来、分断と対立を克服し、問題を解決して発展を継続する能力を有しているのです。
そのためには、何が必要でしょうか。3つのことが大切です。
第1に、正確な知識を基盤にして、自分の考えを確立し、それを発表することです。つまり、アイデンティティを発現することです。 第2に、相手の言うことに耳を傾け、異なる考え方、価値観がありうることを認識することです。この点は、ダイバーシティの容認と言い換えることができます。 そして第3に、双方の満足度の和が最大になる解決策を見出し、それを実行に移すことです。ソリューション能力の発揮が求められるわけです。
皆さんは、ここIUJで、この3点に磨きをかけたはずです。62もの国・地域から集まった在校生を含め410名以上の学生が、24時間365日、机を並べ、生活をともにして切磋琢磨する環境下では、アイデンティティを発現し、ダイバーシティを容認し、ソリューション能力を発揮しなければ、ここでの日々を乗り越えることはできなかったでしょう。
IUJは、世界でもあまり類例を見ないグローバルな空間です。世界で起きている問題を解決に導く主人公は、アイデンティティの発現、ダイバーシティの容認、ソリューション能力の発揮の3拍子が揃った、グローバルな感覚をもった人材に他なりません。それは、誰か。それは、あなた方なのです。
今日まで、私とあなた方は、教師と生徒という関係にありました。明日からは、違います。我々は、ライバルとなるのです。何を競い合うのか。それは、どちらがアイデンティティを発現し、ダイバーシティを容認し、ソリューション能力を発揮しているか、端的に言えば、どちらが「格好よく」生きているかです。
私の人生は、残りわずかです。しかし、残された時間を、精一杯、「格好よく」生きるつもりです。そう簡単には、負けませんよ。
いつの日にか、地球上のどこかで、また会いましょう。良きライバルとして、良き友人として、再会しましょう。
改めて申します。2026年度修了生の皆さん、卒業おめでとうございます!!
日本製鉄株式会社 社友名誉会長
日本商工会議所 名誉会頭
三村明夫 様
只今、ご紹介にあずかりました三村です。皆さんと共に国際大学の修了式に臨席させていただくことを心から光栄に思います。
本日は、「私の60年のビジネス人生で学んだこと」をテーマにお話ししたいと思います。すなわち、新日本製鐵での51年、商工会議所での9年です。私の人生は私個人の独自の人生です。しかし、そこでの学びは、普遍的な一般性があると信じているからです。
私は、就職先として、日本経済の発展につながるとの考えから、鉄鋼メーカー、しかも、当時は業界2位であった富士製鐵を選びました。1位のメーカーに追いつき追い越せといった、活気があるだろうと勝手に考えたからです。
入社7年目に富士製鐵と1位メーカーとの50:50の対等合併の結果、新日本製鐵(新日鐵)が誕生し、1位メーカーを追い越すという私の目論見は早くも挫折しました。その後、新日鐵はNo.3とNo.5のメーカーと合併し、国際競争力確保のために必要な鉄鋼業界の統合再編を身をもって体験した会社人生でした。
しかし、統合再編といっても、単に合併するだけではシナジー効果は得られません。PMI(Post Merger Integration)により、人員・設備の適正化が行われなければ、合併の効果を充分享受することができません。
新日鐵50:50の合併の場合、人員の大幅削減、設備の大規模休止を実行することが極めて難しく、遅れ遅れになっていました。
しかし、1985年のプラザ合意により、円レートは1ドル240円から1ドル120円と円高に振れ、一気に輸出競争力を失った結果、輸出量は急減し、さらに、自動車・造船など輸出産業からは輸出競争力維持のため、大幅な取引価格引き下げ要請が相次ぎ、新日鐵の年間収益は1,000億円の赤字見通しとなりました。急激な円高とPMIの遅れが重なり、円コストの大幅な削減が急務となりました。
急遽、14人の取締役からなる委員会が組織され、私は事務局のヘッドに任命され、6ヵ月にもおよぶ激論の一部始終を直接体験することができました。結果としての合理化案は2つに集約されます。
まず、『主要設備である高炉12基中、中型高炉5基を閉鎖することを含め、固定費を40%削減する。』
「大きな環境変化は組織再生の絶好のチャンスである」ことです。
どんな組織でも、大きな経済変動以外にも、深刻な設備事故、コンプライアンス違反など、多様な事件を経験します。日頃から大胆な構造改革を実行したいと考えていても、何らかの理由でその実行が困難であったなら、このような事故あるいは大きな経済変動を積極的に活用して意図した構造改革を推進するべきです。
何しろ、構造改革の際の経営者の最も重要な役割は、関係者の危機意識を同期させることですが、大きな事件が発生すると、事件自体がその役割を果たしてくれます。
大規模な合理化を計画する際、例外分野を設けない「聖域なき合理化」があるべきやり方として採用されます。コストダウンのスピードと大きさを狙ったものです。しかしどんな組織にも、合理化の対象とすべきでない聖域は必ず存在します。製造業では「製品品質の維持」と「作業安全の確保」のための投資です。しかし、合理化計画策定中に何が聖域なのか、を議論すると膨大な時間を要するため、次善の策として一律の合理化をまず進め、後に聖域を配慮するやり方もやむを得ぬことかもしれません。これら聖域でのコストダウンを元に戻して合理化はようやく完成するのです。
「上から3年、下から3日」という人事評価の格言の正しさも学びました。私より上司である14人の取締役の激論に6ヵ月間接して、人の評価は上司が部下を正しく判断するのには3年かかるが、部下が上司を評価するのに3日あれば十分という格言の正しさを痛感しました。日頃偉そうに振舞っていても、説得力のない発言を繰り返す取締役もいれば、日頃おとなしくても、皆をうならせる正論を主張する取締役もいます。私はこの言葉を自らの自戒の糧として大事にしています。
私は、新日鐵の社長、会長を経て、No.3の住友金属工業との合併を機に会長職を辞し、51年におよぶ鉄鋼人生を終えました。よく「夢を持って、それに向けて粘り強く努力せよ」という言葉があり、それを良しとする風潮もあります。しかし、私は、夢に向かって突っ走ることは素晴らしいとは思いますが、そのためには、「才能と経済力と環境」の3つが備わっている必要があると思います。私の人生は「目の前の丘にまず登る」の連続でした、目の前の丘に登るとより広い世界が見えてくる。そこでまた立ちはだかる丘に登る、さらに広い大きな世界が見えてくる。
私は、社長時代が最も仕事も面白く、生きがいも感じました。後輩たちには、どんな組織でも良い、上を目指せ、それは多くの苦しみもあるけれど喜びもある、結果として人生をかけるのに値するポジションだ、と言うことにしています。
縁あって、2013年に日本商工会議所の会頭に就任しました。商工会議所は日本の企業380万社の3分の1を占める125万社の、主に中小企業が会員となっている経済団体で、中小企業の活性化を通じて日本経済を発展させる任務を負っています。9年間の会頭時代を振り返ると、何と言っても最大の収穫は東京商工会議所初代会頭の渋沢栄一翁の思想との出会いでした。
彼は、日本の資本主義の父と称され、資本主義の揺籃期に481もの企業、600の社会公共事業の設立・運営に関わった人物でした。日本は1867年の明治維新を経て、本格的な近代化への道を歩みはじめましたが、非西洋の国としては植民地化されることなく、国のアイデンティティを保ちながら近代化に成功した唯一の国です。彼は口述書である「論語と算盤」の中で自分の経営哲学を次のように述べています。
「私は事業の設立を考える時、その事業が倫理的に正しいかどうかを考える。次にその事業が社会の発展に役立つかどうかを考え、もし社会発展に貢献すること大であれば(利益は必ずプラスでなければならないが)、利益は少なくともその事業は進めるべきと考える。」
このような彼の思想は、「私益と公益の両立」という形で、現在の日本経済界の中でも広く共有され、私も大いに共感するものです。偉大な思想の例にもれず「私益と公益の両立」は、言うは易く実行は本当に難しいことですが、彼は、91歳の生涯を通じてその両立が可能なことを自ら実践して見せてくれました。
私は、60年のビジネス人生を3年前に終了しました。これまでは目標に向かって直線的に進む人生でしたが、今後は周囲を見渡しながら歩む道を選ぶような緩くやわらかな日々を過ごしたいと考えています。
ビジネスにおいてコミュニケーションが極めて重要であることは言うまでもありません。本日は最後に、ビジネス人生の中でコミュニケーションをスムースにするために、私が実行してきた点を皆さんに紹介したいと思います。
まず一つ目は、「自分の言葉で分かりやすく話すこと」の重要性を強調したいと思います。私は、社長就任前に、約20人の高名な社長に対し、二人きりでの30分間の面会を申し入れました。目的は、新米社長に対する、社長経験者からのアドバイスです。驚いたことに、20人の現役社長は全員こころよく面会に応じてくれ、皆、実に雄弁に私に貴重なアドバイスをくれました。私にとっては実に貴重な面談でした。その一人がタイのサイアムセメントのチュンポン社長です。彼からは、「日本の経営者は易しいことを難しく言い過ぎる。三村さんは、簡単なことは分かりやすく言ってください。」というアドバイスを頂きました。
私は、その言葉を受け、自分の言葉で分かりやすく話す社長になろうと心に決め、自分を律する意味でも、社長就任記者会見で、「自分の言葉で分かりやすく話せる社長になる。」ことを宣言しました。しかし、これは言うは易しく、行うは難しいことです。物事を自分で理解し、理解した内容を話さないと、自分の言葉で話すことはできません。
2つ目は、「良い質問をする」ことの大切さを強調したいと思います。良い質問とは、新しい視点からの質問、もっと基本的な根本的な立場に立った質問、あるいは自らの組織の常識ではない、社会の常識からみた質問などでしょう。良い質問をすることとは簡単なことではありません。日常的な勉強や努力の積み重ねが必要であり、会社の常識から離れた社会の常識に触れる機会を作ることも必要です。 良い質問は会議を活性化し、参加者からはさらに良い質問を引き出し、より良い結果をもたらすことになります。発表者にとっては、自らの発表に対する一種の褒美とも受け取られると思います。
諸君は、文字通り、海図のない航海に乗り出そうとしています。トランプ大統領の数限りなく打ち出す政策のあるものは世界の新しい潮流として定着し、あるものははかなく消え去るでしょう。AIの発展は社会に何をもたらし、地政学的な動きはどのような世界秩序をもたらすのでしょうか。確かなことは誰にも分かりません。しかし、一つだけ確実に言えることは、先入観にとらわれず挑戦する若者が最も活躍できる、あるいは活躍すべき時代が到来したことです。諸君の刺激的な人生に心からの幸運を祈り、私の祝辞を終えたいと思います。
GSIR総代
Muslimov, Mukhammadjon Marat Ugli
ご来賓の皆さま、大学関係者の皆さま、ご家族・ご友人の皆さま、そして2026年度修了生の皆さん、本日はありがとうございます。
私はウズベキスタン出身で、本日、GSIRを代表して答辞を述べる機会をいただき、大変光栄に思います。
2024年にIUJへ来て以来、この場所が大好きになりました。秋の紅葉、深い雪に覆われる冬、桜が咲き誇る春、そして緑豊かな夏など、南魚沼と日本の美しさに魅了されてきました。
しかし、IUJの魅力は自然だけではありません。ここには、異なる国籍や文化、価値観を持つ人々が集まり、私たちは互いを理解し、寛容さや広い視野を身につけることができました。
統計学や計量経済学などの勉強は決して容易ではなく、試験勉強のために多くの夜を費やしました。ストレスや疲労を感じることもありましたが、そのすべての努力が今日という日につながり、私たちは「ついにやり遂げた」と胸を張って言うことができます。
また、学生生活も忘れられない思い出となりました。初めてのスキーで何度も転んだこと、ハウス対抗イベント、音楽活動、ラウンジでの交流、パーティーやカラオケ、友人と屋上で日の出を見たことなど、一つひとつの出来事が、見知らぬ人を友人へ、クラスメートを家族のような存在へ、そして大学を第二の故郷へと変えてくれました。
本日の修了は、決して一人で成し遂げたものではありません。先生方には、知識と経験を惜しみなく与え、私たちを導いてくださったことに心から感謝しています。
また、日本で学ぶという夢を実現する機会を与えてくださった日本政府と、奨学金スポンサーであるJISPA-IMF、そして日々の学生生活を支えてくださった大学職員の皆さまにも深く感謝申し上げます。
私自身も、TAや学生団体での活動を通じて大学コミュニティに貢献する機会をいただき、多くの方々の支えによって成長することができました。
そして何より、今日ここに立つ私を形作ってくれた両親に感謝したいと思います。私のこれまでの成果は、両親の犠牲、励まし、そして私を信じてくれたことの上に成り立っています。また、幼い息子にも、私の努力のすべては彼の誇りとなり、より良い未来を築くためであることを伝えたいと思います。
さらに、この2年間をともに過ごした友人や先輩・後輩、仲間たちにも心から感謝します。皆さんと過ごした時間と友情は、かけがえのない宝物です。
最後に、私がIUJで学んだ最も大切なことを皆さんと共有したいと思います。それは、夢をかなえるために最も才能がある人や最も賢い人である必要はないということです。勇気、努力、そして献身があれば、自分が想像している以上に遠くまで進むことができます。
修了生の皆さんのこれからの人生に幸多からんことを祈っています。本当にありがとうございました。
GSIM総代
Siman, Deanne Narvaez
本日は、ご来賓の皆さま、教授・職員の皆さま、そして会場やオンラインで見守ってくださっているご家族・ご友人の皆さまに心より感謝申し上げます。そして、2026年修了生の皆さん、ご修了おめでとうございます。
多くの学生と同じように、私は「きっと素晴らしい経験になる」という希望を胸に、二つのスーツケースだけを持ってIUJにやって来ました。そして今、私たちは数え切れないほどの学び、思い出、そして何年、何十年にもわたって続くであろう友情を携えて、この場所を旅立とうとしています。
この機会に、まず私たちを支えてくださった方々へ感謝を伝えたいと思います。熱心に指導してくださった先生方、研究指導や日本語教育で支えてくださった先生方、そして学生生活のあらゆる場面で助けてくださった事務局や各部署の皆さま、本当にありがとうございました。また、この学びの機会を与えてくださった文部科学省(MEXT)にも深く感謝いたします。
さらに、クラスメートや友人、地域の皆さまにも感謝したいと思います。皆さんのおかげで、IUJでの生活は刺激的で忘れられないものとなりました。特に、同じ時期を共に過ごしたフィリピン人コミュニティの仲間たちには、特別な感謝を伝えたいと思います。そして何より、遠く離れた場所から私たちを励まし続けてくれた家族に、心からありがとうを伝えたいと思います。
私たち一人ひとりにとって、「IUJらしさ」は異なるかもしれません。しかし私にとって、IUJとは「お互いの成長物語の一部になれる場所」でした。授業やプロジェクトに懸命に取り組み、時にはゼロから学び直しながらも、私たちは少しずつ確実に成長してきました。以前は苦労していたことが、今では自信を持ってできるようになっています。その努力と成長を、ぜひ自分自身で誇りに思ってほしいと思います。
これから先の人生においても、私たちはこの2年間の経験を胸に進んでいきます。大きな喜びも、努力が報われなかった悔しさも、すべてが私たちを成長させてくれました。そして、今の私たちは、IUJに来た頃よりもはるかに多くのことができる人間になっています。
IUJでの生活は、思いがけない形で夢を叶えてくれた場所であり、声に出して祈ったことさえない願いに応えてくれた場所でした。もう少しこの時間を楽しみたい気持ちはありますが、時は待ってくれません。だからこそ、この2年間で強く成長した自分たちを信じ、それぞれの新しい夢に向かって歩み続けましょう。
最後に、IUJに感謝を伝えたいと思います。ここで得たのは、私たちが「期待していた修士課程の経験」ではなく、「本当に必要としていた経験」でした。
ありがとうございました。